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中村博さん 1969年生まれ 伊那市出身
美容師に憧れていたが両親に反対され高校卒業後、就職氷河期を経験し、郵便局員になる。
ずっと配達を担当していたが、新しいことにチャレンジしようと21歳の時自ら手を挙げ保険、貯金の営業部署へ異動する。
お客さんに「ありがとう」と言われる営業にやりがいを感じていたが、いつからかもの作りへの道を意識し始める。
29歳、一生このままは嫌だな、と思っていた時木工職人のお客さんに出会う。
「公務員をやめるなんてバカなことはやめろ」と言われたが、やりたいことをやりたい、と職人の世界へ。
こうあ木工舎勤務。
久保田真理子さん 1982年生まれ 駒ヶ根市出身
小さい頃からもの作りが好きだったため、大学は工学部に進学し建築を専攻する。
しかし、大学での勉強は作るものが「都市」だったりと大きすぎ、思い描いていたものとは違ったため大学を中退し、ガソリンスタンドで働くことに。
6年勤め、自分のやりたいことと現実のギャップに疑問を感じ、もう一度もの作りに携わりたいと専門学校へ入学。
専門学校では工場生産のような現代コース、木材造形の伝統コースとあり、導かれるように手加工の道へ。
その後、作った椅子を中村さんに見出され、こうあ木工舎へ。
家具、建具の制作
木で家具、建具などを作っています。
※家具はテーブルや、椅子など。建具とは、ドアや、戸など住宅があって初めて成り立つもの。
流れ
・打ち合わせ・・・すべてオーダーメイドで作っているので「こんなものを作ってほしい」とお客さんから依頼を受け、詳しい話を聞きます。実際に家具や建具を使うのはどんな家なのか見せてもらうこともあります。お客さんと相談しながらイメージを膨らませます。
・設計、デザイン・・・イメージを図に起こします。ラフ、素案を打ち合わせの場で書ければ書き、お客さんに見てもらい何度かディスカッションします。その後設計図を書きます。
・制作、組み立て・・・木を選び、加工し、組み立ていよいよ完成です。
木を伐る
制作に使用する木は乾燥させた木を使います。木は伐った後4年かけて天日干しをし、乾かします。だいたい4年分のストックを持つようにしています。
最近はKEESプロジェクト(外部リンク)という里山整備活動の一環でも木を伐っています。
一生のお付き合い
作ったテーブルや、椅子で家族のみんながご飯を食べてくれる。その人の人生に寄り添うことができる。そんな空間を作りながら、一生のお付き合いをさせていただけるのがとても嬉しいです。
自分の作ったものを最後はお客さんが良いか悪いかを決めてくれる。自分が良いと思うものを作り、出来上がった最後に「ありがとう」と言ってもらえること、それに共感していただけるのが認められたという喜びになります。
木を知る
同じ木でも木の種類によって木の色、木目が全く違ってきます。
針葉樹は可愛い感じに仕上がり、広葉樹は高級感が出ます。
夏場の木は水分をたくさん含んでいるので、夏場に伐採した木で作ってしまうと、冬になった時木がスカスカなってしまいます。性質を見誤るとクレームに繋がります。
木の性質に合ったように木を使うこと、それが難しくもありやりがいでもあります。
森林と生きていく
会社では、木こり育成講座を20年以上に渡り取り組んでいます。今まで森林と人の関係性を理解したつもりになっていたということに木工職人になってから気づきました。
木を扱うこということは、木の近くにいるということ。私たちは自然を破壊してはいけないのです。
人と自然の大切さを理解し、結んでいく仕事。そんな使命感も感じています。
中村さん
私生活と仕事の境目は無いです。遊ぶ感覚で楽しく仕事をさせてもらっているのでそれを理解してくれる家族に出会えたことに感謝しています。
子どもが小学生の時はあまり子育てに関われなかったのですが、それではだめだと思い中学生になった時積極的に関わるようにしました。息子が私と同じでサッカーをやっていたので、試合の応援に行き、コーチもしました。娘は卓球でインターハイに出場することができました。子どものスポーツを指導していて思いますが、スポーツと仕事は共通点が多いです。
月曜日から金曜日まで働き、土日は休みです。最近は休日も森に親しみを持ってもらうイベントを開催しています。
その他畑と山があるので、季節になれば草刈りや、農作業もしています。
久保田さん
休日はインドア派なので、家でんびりとテレビを見ることが多いです。
最近は中村さんと一緒にイベントの主催者となり木を身近に感じてもらえるような活動をしています。
他には技術の勉強に全国各地に出かけることもあります。
マイペースな方だと思うのですが、今はいろいろなことに巻き込んでいただきながら成長させていただいています。
農業、林業といった一次産業は人との関わりの近くにあるものです。人は自然とともに生きてきたし、これからもともに生きていくものだと思います。
経済や、世の中はめまぐるしいスピードで発展してきました。しかし、今原点に戻り、自然と暮らせるなら生きてみたいと思います。なるべくゴミの出ない生活をし、現代にあった価値観、文化を伝えていきたいです。
久保田さん
やりたいと思ったことは、やってみた方がいい。やってみてダメなら、そこで考えればいい。
失敗が怖いかもしれないけれど、そんな時は背中を押してくれる大人の力を借りてみてください。
中村さん
苦労は買ってでもした方がいいです。やっただけ結果が出る、やれば必ず応えてくれる。
今は分からないかもしれないけれど、10年後に答えが出ることもあります。
やりたくないことをやらされて辛いと思うかもしれないけれど、人はやりたいことが来るように変えることができます!
「木のいのち、木のこころ―天・地・人―」 著 西岡常一、小川三夫、塩野米松 (新潮文庫刊)
法隆寺大工の西岡常一さんが著者なのですが、
「森に入って、南向きに立っている木は建物に使うときも南の方位に使う」、といった学びから、
「個性を殺さず、癖を生かす」という木も人も通じるものを感じることができる一冊です。
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